「やりたいプレーと勝つプレーが違う」と語った、錦織圭が選んだ道は?

近年の日本男子テニス界で不動のNo.1であり、数々の記録を塗り替えている錦織圭

今では、ツアー屈指のフットワークと、安定したストローク力をベースに、粘り強いラリー戦を展開しながら、隙を見てフォアで攻撃に転じたり、ドロップショットで意表を突いたりするのが錦織のプレースタイルとなっています。

2014年はバルセロナ・オープンでクレーコート初優勝も経験し、最も球足が遅く、粘り強さが必要とされるクレーコートで結果を残したことが、そのスタイルの完成度の高まりを物語っています。

しかしそんなスタイルも、もちろん簡単に手に入れたわけではありません。

錦織は元々、破壊力抜群のフォアや、誰も予想の付かないタイミングでのテクニカルなショットを武器とした、非常にアグレッシブなスタイルの選手でした。

20140825_nishikori_k1 photo:Love @ll
▲錦織は18歳の時に、恐れを知らぬ攻撃テニスでツアー初優勝を飾った

転機となった2009年の故障

2009年、右ひじの疲労骨折が判明した錦織は、シーズン後半から2010年シーズンの前半までを棒に振ります。

リハビリの中で錦織は、自分自身のテニスについても見つめ直していました。当時のインタビューで錦織は「やりたいプレーと勝つプレーが違うので、今、自分と戦っています」とコメントしています。

エースをバンバン取ったり、あり得ないところから打って入れる積極的なプレーが理想だが、ミスも多い。勝つためには安定した山なりのボールも必要だが、それが消極的に感じて嫌だと言うのです。

やりたいプレーと勝つプレーが違う

確かに、近年ツアーで活躍している選手を見ても、ナダルやジョコビッチ、マレーやフェレールなど、固いディフェンス力をベースとした選手の活躍が目立ちます。あのジョコビッチも、ナダルやフェデラーに全く勝てない状況から、ディフェンス力の強化によってNo.1になることができました。

逆に攻撃的テニスで勝ち上がっている、ラオニッチやデル=ポトロ、ベルディフやイズナーなどは、皆2メートル近い長身と、常時200キロを超えるサービスを持っており、絶対的にサービスゲームを支配できる選手です。

いくら素晴らしいフォアを持っているとはいえ、身長が170センチ台で、アベレージ180〜190キロのサービスの錦織が、トップ選手のディフェンスを打ち崩してツアーで勝ち続けることは、かなり難しい挑戦になってしまうのでしょう。

この頃は、肉体面のリハビリと精神的な葛藤、様々な悩みを抱えていたことと思います。

復帰、そして導き出した答え

2年後の2011年。

錦織は見事、復活を果たし、スイス・インドアで、当時世界ランキング1位のノバク・ジョコビッチに勝利する大金星を挙げます。

20140908_nishikori_k3 photo:angela n.
▲世界ランク1位に勝利した日本人は錦織が史上初

後のインタビューで錦織は、以下のように語っています。

「戦い方を変えたっていうのが一番あって。今までの自分は攻めて攻めていくスタイルだったので。今は守りが一番最初にある」と明かし、強引なショットで攻める半面、自滅していたこれまでのプレースタイルから脱却したことをアピールした。
引用元:livedoor News

悩み抜いた末、錦織は自分自身のやりたいプレーへのこだわりを捨てました。

しかし、完全に捨てたわけではありません。2014年に4回戦まで進出し、王者ナダルもあと一歩のところまで追いつめた全豪オープン中のインタビューでは「攻撃的なプレーも徐々に出していきたいと思うので、攻守のバランスはしっかり意識してプレーしたいです。やはり、ワンサイドだけでは勝てないので、試合中はしっかり意識して、上手くできるようにしていきたいです」と語っています。

現に今でも、攻撃的なフォアでエースを取るシーンや、相手の意表を突いたドロップショットを放つシーンなど多々あり、元々あった武器もアクセントとして混ぜることで、以前より効果的に使えています。

錦織の中では、やりたいプレーを取るか、勝つためのプレーを取るかは単純な二者択一ではなく、共存は可能という結論に至ったように思えます。

冒頭に挙げたバルセロナ・オープンでのクレーコートの戦いを見ていても、まるで全盛期のナダルを見ているかのような安定したストロークをベースに、最後はしっかりと攻め切る形で優勝しました。

厳しい男子ツアーの中で、これからも様々な壁に直面することと思いますが、きっとまた乗り越えて、活躍してくれる。そう期待せずにはいられない強靭なメンタリティと、魅力が錦織にはあります。常に進化を続ける日本のエースから、今後も目が離せません。